まちの案内人は人生の案内人
天井知らずのガソリン価格に対抗して、友人と
木曽中仙道を歩く旅にでた。
…と言っても歩いたのは、
木曽福島宿を2時間ほどですが…
で、街のことは街の住人に訊け! の王道にのっとり、
まちづくり木曽福島が運営する
まちの案内人をお願いした。
古い町並みや豊かな自然、歴史と文化のある伝統工芸に至るまで、一緒に歩いて説明してくれる。
当日はあいにくの雨降りだったけど、
案内人の三村さんと、
親水公園で待ち合わせた。
木曽漆器発祥の地「
よし彦」前を通り、
中八沢橋から当時の宿場町が保存されている
上の段エリアに入り、江戸時代にタイムスリップする。
「
漆の館」では、三村さんのご配慮により、途絶えていた伝統の
矢澤春慶塗りを現代に蘇らせ、後世に伝えようとしているご主人から、引き締った風格の作品と一緒に、漆についての貴重なお話を聞かせていただく。
奥さまからは、ホッとする美味しいお茶のおもてなしまで受けてしまった。
「
木地の館篠原」では、東京からアイターンされた松本さんが、九十歳を超えた師匠の、この見事な卓越した技を途切れさせてはいけないと、数々の作品と共に、ご自身の想いを熱く語って下さり、その情熱に感心するばかり…
電柱の地中化により、スッキリした町並みの至る所には、三村さんが子どもの頃から変わらない、
水の流れがそのまま存在していた。
武田信玄の娘、真理姫の供養塔がある
大通寺へ通ずる、
なまこ壁の土蔵の景色を眺めていると、今にも、ちょんまげ姿のお侍が現れてきそうです。
陰陽師安倍清明伝説にまつわる
清明社と、観光文化会館を見学し、
馬宿小路を抜け、再び親水公園に下りてくる。
町民の寄付によって創られた、風情ある
行人橋歩道橋を渡り、清らかな
木曽川の流れを眺めながら、整備された遊歩道を
山村代官屋敷に向かう。
三村さんからは子どもの頃、川で魚を釣ったり、泳いだり、崖家造りの家並みなど、住民の生活にとって、この木曽川が大切な存在であることがうかがわれる。
文豪
島崎藤村の
夜明け前の碑がある、レトロな建物「
木曽郷土館」を眺めながら、代官屋敷に到着したでござる(ここでなぜか、武士語になる)
長きにわたって木曽の地を治めた、山村家の屋敷の一部を整備開放した施設で、当時の貴重な資料を元に、その人となりを丁寧に説明してくださる。
民のことを第一に政を行った代官らしく、質素で簡素なスッキリした造りです。
庭からは守り神とされた
狐のミイラが発見され、屋敷内にある
山村稲荷に、ご神体として祀られ、そのミイラもありがたく拝ませていただいた。
こうしたなさそうでありそうな、摩訶不思議な伝説は、旅をいっそう非日常的な空間へ誘い、実に愉快でござる。
最後に三村さんから、今日の出逢いの記念にと、木曽の山々に響きわたるような伸び伸びした声で、民謡「
木曽節」のプレゼントがあり、一同大感激するでござる。
時間オーバーの2時間の案内で、料金はたったの弐千円のうえ、宿泊先の馬籠までの道案内もして下さり、誠にかたじけなく候。
後期高齢者である三村さんですが、古里の町を心から愛され、活き活きと、前向きに生きておられる姿は、まちの案内人であると同時に、
人生の先達としての案内人でした。
旅はやはりこうした思いがけない出逢いが、想い出になるのです。