2009年05月20日

決壊

平野啓一郎「決壊(上下巻)」新潮社
小口三方がすべて黒で塗つぶされた装丁で目を引きます。

読んだあと、この小説はいったい何だったんだろう? と時間が経てば経つほど悩まされます。
つまらない!のではありません。おもしろい!のでもありません。
複雑で孤独と隣り合わせの世の中で、訳の分からないあいまいな不安に怯え、暗やみを手さぐりで歩く現代人には、読んで欲しい一冊です。

主人公の崇から発せられる、人間存在の根本に対する言葉が、非常に哲学的で難解で、私の思考回路ではついていけない部分もありました。
中盤から終盤にかけての嵐のような展開は迫力の筆致で、一刻も早く最後のページに辿りつきたい、と言う気持ちにさせます。
テーマ性は秀逸で、昨年起こった秋葉原通り魔殺人事件にも通じるものがあります。

考えたのは「伝える」と言う行為です。
ことばは勿論、書籍・ケイタイ・TV・ネットなど、自分の想いを伝える媒体やツールは山のようにあり、増殖し続け、誰でも簡単に手に入れられるのに、実際は何も伝わっていないのではないか? と言う気がしました。
そして、この「伝える」または「伝え続ける」と言う行為は、とても困難な事だと改めて気がつきました。
情報が大量生産大量消費される現代より、伝えるツールがごく一部の限られたモノしかなかった時代の方が、伝えるべきことは厳選され、真実に近く、確実に残ってきた! そんな気がしました。
決壊




Posted by mahora at 14:36│Comments(0)
 
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